前段

事前準備

宿泊施設の運営の効率化やその再生の方法などについてのお話を始めさせていただく前に、まず、皆さんはご自分のホテルや旅館の客室の売価やラックレートはご存じかもしれませんが、販売コストを正確にご存じでしょうか。もちろん、大雑把に例えばビジネスホテルであれば、経費が3000円くらいとか4000円くらいだろうとは認識していらっしゃるかもしれませんし、PL上の営業利益率をご存じであればADRからだいたいの販売コストをおっしゃれるかもしれません。ただ、実際に販売を担当しているフロントスタッフの方やフロント支配人あるいは経営者の方であっても、私の経験ではあまり突き詰めて販売コストを計算していない場合が多かったようです。
そこでまずは皆さんの宿泊施設のADRとそれにかかる販売コストを計算することからスタートしましょう。ビジネスホテルを例にとります。ホテル全体のPLや営業利益率は別途お話しますが、まずはホテルのスタッフ全員がだいたい販売価格には、いくらくらいのコストをかけて販売しているかを把握すること。これが効率化や再生への道の最初の一歩・・・・ではなくて、出発前の準備段階にしなければならない重要な項目です。
それではその販売コストにはどういう科目(項目)が入るのか。次にあげる科目(経理上の費用計上科目にて分類)はそれぞれのホテルの運営方針・ポジショニングまたは総支配人・支配人の方の考え方によって順位の違いや要不要があって当然だと思います。ただ、あまり厳しい数字を導き出してもフロントスタッフのモチベーションにも影響するかもしれません。一部屋売っても「たったこれだけ!」ではどうかとは思います。したがって、経営者見地のものと営業利益ベースでフロント現場見地のものと二通りで経営者や総支配人職の方は把握してもいいでしょう。下記に述べる順位の5番までがフロントスタッフ用、それ以降は経営者視点用と私は捉えます。

■販売コスト

① 客室清掃費
② フロント人件費
③ リネン費
④ アメニティ類費用
⑤ 水道光熱費
⑥ 広告宣伝費
⑦ エージェント・カード手数料
⑧ 修繕費
⑨ 減価償却費

⑨番については異論もあるでしょうが、前述の通りにそれぞれのホテルでの考え方があって当然ですので、これを不要としても構いません。実際に相当に厳しいことで知られる外資ファンド系ホテル運営会社のPLにおいても、減価償却費・公租公課は営業利益よりも下、すなわちEBITDA や純利益という範疇に計上される費用となっていますので、⑧番までで十分かもしれません。
あるいは、減価償却費の中で宿泊部門に帰するべきものをコストに入れるという考え方でもいいかもしれません。また⑦番についても異論があるでしょう。私もこれはどちらでもいいと思います。販売したすべての部屋が手数料対象でもないし、これもそれぞれの判断で構わないと思います。

フロントで把握すべき販売コストだけに話を絞りますが、①番から⑤番までの費用を一月分計算して販売客室数で割ってみれば一部屋当たりのコストが導き出され、それをADRから引き算すればそれが大変大雑把な粗利益になります。もしこの作業を今回初めてなさるのであれば、意外と儲からないものと思われているのか、あるいは結構利益が出ているものだと思われているのか。
いずれにしてもその数字を見た時の印象から、今後の方策の方向性も決まります。もちろん、販売コストも適正だったし案の定「儲かっている」というホテルであればこの本は必要ないかもしれません。でも、販売コストを見て「意外と儲からない」と感じられたのであえれば今後どうやって利益幅を増やすか。「意外と儲かっている」ならいいですが意外と儲かっていそうなのに営業利益的には不満足な結果がでているなら、どういうコストがかかりすぎているのか。といった具合に、販売コストの数字から様々なことが見えてきます。

これらの要素にさらにシティホテルや旅館であれば別の要素が加わります。いずれにしても、パッケージ商品なども含め一つの商品あたりどのくらに費用がかかるものであるかは分析してみる必要があります。10000円のパックを9000円に値引きして売ることが日常化しているならば、それが原価率圧迫の要因ですし、対策としては9000円なら9000円なりの費用構造にしないと10000円の商品と同じ利益率にはなりません。旅館などで稼働率や人員稼働率が上がってもなかなか営業利益が上がらないという例は、得てしてそのような割引が行われているからです。特に旅館で気をつけなければならないのは、ビジネスホテルなどがやっているタイムサービス割引のような売り方をすることです。素泊まりや一泊朝食付きくらいまでは単純に10%割引をしても原価率にそれほど大きなインパクトはありません。旅館の一泊二食の場合は、基本的に割引ではなく、割引した料金なりの商品を作る必要がある収入構造をしているからと考えるべきです。
ここで敢えて申し上げたいのは、販売コスト率が何%であるべきとか何%が理想的というような考え方はしないということです。販売コストや営業利益率などについても、時々コンサルの方が何%にあるべきとか、多くのホテルが何%でやっているというような言い方をなさります。これからお話する費用面のページでも私は何%が正しい、何%であるとか、何%すべきという言い方はいたしません。
それはホテルにはホテルの事情があり総論的に日本のどの地区でも通用する方程式もあるにはあるのかもしれませんが、地方色もあれば経営基盤の違い、競合ホテルの動向、築年数などほんとうに多くの要素が存在する可能性がありますので、一定の方程式は押し付けないつもりです。経営的な話になりますが、この経営状態で良いというのであれば人件費率が40%であってもアメニティにADRの10%をかけてもまったくそれは問題ではありません。言い換えるとこの点にはこだわりたいのでこれだけの費用をかけると経営的に判断されるのであれば、館内に生花があってもそれはそれで結構なことだと思います。
平均的なあるいは理想的な%については言及しないとは申し上げましたが、それぞれのホテルの販売コストから導き出される利益率を今後、どうやって向上させていくかがこの本の主題ではあります。できれば直近の前月ではなく過去三年くらいは遡って、この販売コストを算出しておくとデータとしての信用性も上がりますし、一度算出してしまえば、そのあとは毎月毎月の数字を作ればいいので大した労苦にはなりません。
外資系の場合、このようなデータの作成がとてもお好きなのですが、実は作成されるデータは下層部のさらにデータが入っている場合が多く、でもある面そうすることにより意外な場面で役に立つようです。
例えば、PL上で費用→宿泊費用→ゲストリネン→シーツ(などのアイテム)と入っていってシーツの単価・発注数・月別総額・四半期ごとの総額・半期総額・年間総額と非常に詳細です。まあ、最初はとりあえずリネンという括りで十分ですので、月額いくらリネン費として支払っているかを調べ、それを販売室数で割れば大雑把ではありますが販売コストの中のリネン費が導きだせます。過去三年とは申しましたが、まずは前年の数字だけでも作っていただいて今期と比較できるようになれば、もう「第一歩」のための準備はほぼ完了です。それでは実際に計算してみましょう。

① 客室清掃費 : 業務委託であれば一室当たりの費用、直接業務にあたっているならば、メイドさんの時給と一時間当たりの清掃可能部屋数で算出します。
② フロントスタッフ人件費 : フロント支配人以下のスタッフの総人件費を販売室数で割ります。
③ リネン費 : バスルームに入っているリネンの洗濯代とベッドリネンの洗濯代の合計です。
④ アメニティ費 : 歯ブラシなどのアメニティ、シャンプー類、印刷物類の総計
⑤ 水道光熱費 : ホテル全体の水道光熱費を宿泊だけに限ることはなかなか難しいですが、会議室やレストランがある場合は思い切って床面積で応分負担にして総床面積と客室部分の面積から水道光熱費を導きだします。

そうすると、たとえば平均単価が5000円のホテルであれば

5000円―(①+②+③+④+⑤)= 販売コスト

が上記の計算式でおおよその数値が出てきます。旅館についても一泊二食の商品について調理スタッフやサービススタッフの人件費と原材料費を加えて、上記の計算式に則れば販売コストが大まか、出すことができます。ビジネスホテルであれば、素泊まりと一泊朝食くらいの商品構成ですので、ホテル全体のPLから販売コストを算出しても概ね近似値となりますが、旅館の場合はどうしても素泊まりと一泊二食の商品では単純に比較できないので、少し作業が多くなります。それでも販売コストを出すことは非常に重要なことです。これで準備ができました。

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